申請者は、平成20年度から21年度までの科学研究費補助金・若手研究Bを受け、その研究課題のもとに、マウス胚性幹細胞(ES細胞)の分化誘導・発生毒性解析系の確立に取り組んできた。これまでに、マウスES細胞を用いた薬剤毒性試験(Embryonic Stem Cell Test ; EST法)を利用し、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(selective serotonin reuptake inhibitors ; SSRI)の一つフルオキセチンについて毒性評価を行い、フルオキセチンは神経系の分化に影響を及ぼすという結果が得られている。本年度は、EST法の試験系としての幅を拡げることを目的とし、フルオキセチンによる組織特異的な発生毒性、特に神経系の発生への影響に焦点を当て、ES細胞の神経分化誘導系を利用し、フルオキセチンの影響を検討した。ニューロン系列、グリア細胞系列それぞれのマーカー遺伝子の発現を解析し、フルオキセチンは、グリア細胞のマーカー遺伝子発現を上昇させることが明らかとなった。この結果から、フルオキセチンは、グリア細胞の分化を促進させる作用を持ち、神経系の発生、分化に影響を及ぼすことが示唆された。以上のように、マウスES細胞の神経分化誘導系を利用した薬物毒性試験は、胎児期における神経系の発達への影響を観察するのに適したin vitroの系と考えられた。今後、神経発生毒性試験として、様々な薬物の影響についても検討していくことで、神経系の形成不全、発達障害が起こるメカニズムの解明、バイオマーカーの探索に繋がることが期待される。 申請者は、成育医療の立場から、母親が摂取した薬物が胎児の発生にどのような影響を与えるかを調べている。本研究のような多能性幹細胞を利用したin vitro毒性試験は、薬物の個体発生に及ぼす影響を解析する試験系として、創薬への応用が大いに期待される。
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