我々の研究室では、これまでに肺高血圧症に対する経肺遺伝子治療法の開発を行ってきており、超分子ナノデバイスを使った安全で効率的な経肺遺伝子治療法の臨床への応用へ向けて、技術や知見の蓄積を進めており、着実に成果を上げている。これら成果を、世界的に見て一番頻度の高い遺伝疾患である、嚢胞性線維症(CF)の遺伝子治療への展開を目指したのが、本研究である。現在、塩素イオンチャンネル(CFTR)に異常を有する嚢胞性線維症に対しては、根本的な治療法がなく、対処療法のみが行われている。予後は呼吸器症状の程度に左右され、生存期間中央値は31才である。本研究では超分子ナノデバイスを用いて、CF患者に正常なCFTR遺伝子を、安全かつ効率良く、経肺投与する遺伝子治療法の開発を行う。初年度である今年度は、株化細胞を用いたin vitro実験を開始した。健常者由来気管上皮細胞株化細胞や、CF患者由来気管上皮細胞株化細胞に対して、現在開発中の超分子ナノデバイスで遺伝子導入が可能であるかどうかの検討を行い、遺伝子導入の最適条件の検討を行った結果、健常者由来気管上皮細胞株化細胞と同様に、CF患者由来気管上皮細胞株化細胞に対しても、超分子ナノデバイスを用いて遺伝子の導入が安全に行えることを確認した。このことより、次年度において動物でのin vivo投与実験に進むための基礎ができたと考えている。入手した正常CFTR発現プラスミドを用いたin vivo投与実験に向けて、CFモデルマウスの準備や評価系の開発に取り組んでいる。
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