癌の分子レベルでの予防をめざして、TGF-β1結合蛋白質LTBP-1(LatentTGF-β1 billding protein-1)蛋白に着目して解析を進めてきた。これまでの代表者らの研究で、卵巣癌組織で同蛋白の発現が高く、卵巣癌細胞株JHOM-1において、RNA干渉によりLTBP-1の発現を抑制すると、細胞増殖と生存数が減少することから、同蛋白は、細胞増殖能の活性化を通じて、癌の発生や進行に寄与していると予測された。本研究課題では、癌におけるLTBP-1L蛋白の働きを分子レベルで明らかにし、同時に、代表者らがLTBP-1L遺伝子上に発見した新規のSNP(-塩基多型)が、卵巣癌症例の生命予後と相関するというこれまでに得られた知見を、多臓器の癌に解析範囲を広げた臨床データ解析により、詳細に検討することを目的として解析を行った。 本年度は、LTBP-1Lと、亜型のLTBP-1S cDNAの全長をそれぞれ組み込んだpIRESneo3発現ベクター(Takara)をJHOM-1に導入し、G418を用いたスクリーニングにより、安定発現株を得た。これらの株の性質について解析を行っている。また、金沢大学附属病院の大腸癌、胃癌、子宮体癌、肺癌、それぞれ100-200症例の、LTBP-1L遺伝子のSNPのタイピングを行った結果、癌種によって、遺伝子型頻度に違いが見られることがわかった。これらの症例組織切片を用いて、LTBP-1L蛋白の発現を免疫組織化学染色により調べた。これまでのところ、SNP遺伝子型と同蛋白の発現には有意な相関は見られていないが、今後、遺伝子型と生命予後をはじめとした他の臨床データとの関連について、多変量解析により検討する。
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