研究概要 |
本年度は、TGF-β1結合蛋白質LTBP-1L(Latent TGF-β1 binding protein-1L)が、癌の発生や進行に関わっているかを明らかにするために、卵巣癌以外の多種の臓器癌に対象を広げ、解析数も増やして洞蛋白の発現状態を調べた。そして、分子マーカーとしての有用性を検討していくために、生命予後をはじめとした臨床データとの関連を詳細に検索し、申請者らが発見したLTBP-1Lプロモーター上の新規SNP(一塩基多型)との関連解析に取り組んだ。 金沢大学病院の大腸癌、胃癌、卵巣癌、子宮体癌,肺癌それぞれの症例について、組織免疫化学染色法によりLTBP-1蛋白の発現を調べた結果、興味深いことに、癌種によって、発現状態に違いが見られ、以前に報告した卵巣癌のように(Higashi T. et al J Mol Diagn 8(3):342-350, 2006)、ほとんどの症例でLTBP-1白が高発現している癌種と、反対にほとんどの症例で発現が低い癌種に分けられることがわかった。また、高発現している癌種の中には、発現の程度と組織型あるいは遠隔転移に相関傾向が見られるものがあり、LTBP-1蛋白が癌組織において重要な役割をしていることが示唆された。一方、以前に卵巣癌で報告したSNPと生命予後の相関については、どの癌種でも有意な相関は見られなかった。これは、以前の解析では症例数が少なかったために出た違いと考えられた。 これらの結果は、癌組織で発現しているLTBP-1Lが、癌の発生や進行を予防するための標的分子として有用である可能性を示唆しており、申請者らがめざしている癌の分子レベルでの予防に向けて意義あるものである。
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