浮遊粒子状物質の一つであるディーゼル排気微粒子は、大気汚染の主要成分であり、呼吸器系・循環器系などへ影響を及ぼすことが明らかにされている。ディーゼル排気ガスには様々な粒径の粒子が含まれており、中でも多く占めるナノ粒子の毒性影響が懸念されている。昨年度ナノ粒子を多く含むディーゼル排気ガス(NR-DE)の曝露によってペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体α(PPARα)が誘導され、炎症に関わる可能性が明らかとなった。そこで、今年度はPPARαが制御する脂質の変化について検討をした。 国立環境研究所のNR-DE曝露施設で曝露を行った6週齢雄性野生型マウスとPparα-nullマウスを実験に用いた。各遺伝子型のマウスは新鮮空気又は主に粒径22~27nmの粒子を含む低、高濃度のNR-DE、高濃度のNR-DEをフィルターに通し粒子を除いたガス(除粒子)に、1日5時間、週5日、2週間、1ヵ月、2ヵ月間吸入曝露を行い、これらのマウスの肝臓を使用した。 病理所見において、Pparα-ullマウスでは野生型マウスに比べ肝臓中の脂質量が多く、NR-DE曝露により脂質の蓄積が促進している傾向が見られた。野生型では顕著な傾向は見られなかった。肝臓中の中性脂肪量、総コレステロール量ともにPparα-nullマウスの方が野生型マウスに比べ多かったが、NR-DE曝露により中性脂肪量は2ヶ月曝露の野生型で、総コレステロール量は両遺伝子型で上昇していた。肝臓のPPARαやその標的遺伝子である脂質代謝酵素の発現は、2ヵ月曝露の野生型の除粒子群で有意に上昇していた。 NR-DE曝露により肝臓中の脂質の蓄積が見られることが分かった。PPARαは脂質代謝酵素を誘導し、脂質代謝を亢進させることが知られているが、PPARαは誘導されるものの脂質代謝の亢進は見られず、今後の更なる研究が必要である。
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