ディーゼル排気ガス中にはナノサイズの粒子が多く含まれるが、このようなナノ粒子の肝臓への影響はあまり注目されてこなかった。これまでに、主に雄性のF344ラットにおいて、ナノ粒子を多く含むディーゼル排気ガス(NR-DE)を1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月曝露したところ、1か月曝露で肝臓での炎症が進行し、3か月曝露後脂質の蓄積が見られることを明らかにした。そこで、今回は、炎症マーカーが上昇していた1か月曝露後の肝臓から抽出したRNAを用いてマイクロアレイ解析を行った。対照群2個体と高濃度曝露群2個体を用いた。高濃度群と対照群を比較し、変動比2倍を閾値にしてGenMAPPを用いてパスウェイ解析を行った。 エイコサノイド合成、プロスタグランジン合成・制御、脂肪酸生合成、コレステロール生合成、概日リズム、アンドロゲン受容体シグナル、細胞周期、G1→S期細胞制御、ヘッジホッグシグナル、脂質代謝や毒性に関与する核内受容体、ステロイド生合成経路が抽出された。 これまでの研究で、脂質代謝や抗炎症作用を有し動脈硬化に関与する、NR-DE曝露によって上昇が確認されたペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体(PPAR)αについては、今回のマイクロアレイの結果では、全ての組み合わせで1.2-1.5倍程度の軽度の上昇であった。しかし、エイコサノイド合成経路やプラスタグランジン合成経路は内因性のPPARのリガンドの生成経路であり、アラキドン酸からプロスタグランジンH2の合成が促進していること、アラキドン酸合成酵素を抑制するアネキシンが減っていることからアラキドン酸がNR-DEによる毒性のマーカーになる可能性が考えられる。
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