我が国の自殺死亡率には大きな地域差があることが知られている。地域における自殺予防対策を実践するためには、地域の実情にあった事業を計画する必要がある。人々のメンタルヘルスに関する知識と態度(メンタルヘルスリテラシー)は、本人の対処行動のみならず周囲からの支援や行政等のサービスへのアクセス性にも関連すると考えられ、メンタルヘルスリテラシーの地域差とそれに関連する要因を明らかにすることは地域における自殺予防対策の計画に有用と考えられる。秋田県O市において、30歳から69歳の住民を対象としたサンプリング調査(3対1)により、メンタルヘルスリテラシーと関連する諸要因に関する質問紙調査を行った。調査票の配布回収は行政および住民組織の協力により行い3019人より回答を得た。O市は沿岸部に位置し9地区からなる。市内9地区は市街地(2地区)と周辺地域(7地区)に分けられる。周辺地域は農林漁業従事者が多い。回答者の内訳は男性38.6%、女性54.9%であった。平均年齢は59.6歳で男女差は無かった。市街地の回答者は1060人、周辺地域は1959人であった。本年度は市街地と周辺地域のメンタルヘルスリテラシーについて検討した。うつ病について、療養には「休養が必要」との回答を選んだ割合は52%、症状に「死にたくなる」ことがあるとの回答を選んだ割合は42%、「心の弱さ」に関係しているとの回答を選んだ割合は36%、「自分はならない」との回答は13%であった。地域差として、回答者の性別、年代を調整しても「休養が必要」との回答は市街地に多く(OR=1.36、p<0.001)、「死にたくなる」との回答も市街地に多かった(OR=F1.50、p<0.001)。一方、「心の弱さ」や「自分はならない」との回答には地域差はみられなかった。今後、中山間地域での調査結果を併せた分析によりメンタルヘルスリテラシーの地域差に関連する要因の検討を行う予定である。
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