研究概要 |
我が国の自殺死亡率には大きな地域差があることが知られている。人々のメンタルヘルスに関する知識と態度(メンタルヘルスリテラシー)の地域差とそれに関連する要因を明らかにすることは、対策に有用であると考えられる。昨年度の秋出県O市(沿岸部)に引き続き、秋出県Y市3地域(内陸部)において、30歳から69歳の住民を対象として、メンタルヘルスリテラシーと関連する諸要因に関する質問紙調査を行政および住民組織の協力により行った。回答者14261人の内訳は男性46.7%、女性53.3%であった。平均年齢は男性56.5歳、女性57.4歳であった。調査地域は市街地(2地区、回答者6907人)と周辺地域(13地区、7198人)に分けられ、周辺地域は農林漁業従事者が多い。 うつ病について、療養には「休養が必要」との回答を選んだ割合は55%、症状に「死にたくなる」ことがあるとの回答を選んだ割合は40%、「心の弱さ」に関係しているとの回答を選んだ割合は35%、「自分はならない」との回答は16%であった。昨年度のO市調査ではそれぞれ52%、42%、36%、13%であり、顕著な差は無かった。回答者の性別、年代を調整しても「休養が必要」との回答は市街地に多く(OR=124, p<0.001)、「死にたくなる」との回答も市街地に多かった(OR=1.21, p<0.001)。一方、「心の弱さ」や「自分はならない」との回答には地域差はみられなかった。この結果はO市と同様であった。知人のうつ病の経験には地域差は無く、知人の自殺の経験は周辺部に多かったが、メンタルヘルスリテラシーの地域差には影響が無かった。うつ病に関するメンタルヘルスリテラシーには、同じ地方自治体内の市街地と周辺地域の間であっても地域差がある可能性が示唆された。これらの背景要因についてさらなる検討が必要である。
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