研究概要 |
インド洋熱帯域の海面水温の異常変動「ダイポールモード現象」による多雨およびベンガル湾海面水位の上昇がバングラデシュにおけるコレラ流行に関わっているかを検証するため、今年度はバングラデシュ国際下痢症研究所(ICDDR,B)を訪問し、コレラ患者データを収集した。また研究協力者を通じて「ダイポールモード現象」の指標となるインド洋の海面温度、海面高度、首都ダッカおよびICDDR,Bの人口サーベイランスシステムが整うマトラブにおける地上観測気象データ、主要な河川水位データを収集した。これら気象・水文・海洋、コレラ患者データを統合したデータベースを構築し、時系列解析を行った。その結果、「ダイポールモード現象」とコレラ患者数の関連はダッカ(都市部)およびマトラブ(地方)でラグタイムにより異なる関連があることが明らかになった。具体的には、ダッカにおいては、過去3ヶ月間の平均ダイポールモードインデックス(DMI)とコレラ患者数は正の関連を示し、過去4-7ヶ月間の平均DMIとは有意な負の関連を示した。マトラブにおいては、過去3ヶ月間の平均ダイポールモードインデックス(DMI)とコレラ患者数は正の関連を示したが、過去4-7ヶ月間の平均DMIとは関連を認めなかった。また、ベンガル湾海面水温および海面高度が一定の値以上になるとコレラ患者数が増加することが明らかとなった。これらの成果は気象データを用いたコレラ早期警戒システムの構築に向けた基礎的データとなることが期待される。来年度はこれらの研究成果を国際学会で発表するとともに、国際誌に投稿する。
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