研究概要 |
【目的】石綿曝露による長期健康影響を検討する目的で、某造船所で石綿曝露を伴う作業に従事していた元労働者を対象とした歴史的コホート研究を1995-1996年に実施した(Ind Health 1999, 37, 9-17)。今回、その後の追跡調査を行なった。 【対象】過去の在職者名簿等を基に、1947年から1979年の間に石綿曝露を伴うボイラー修理工(以下B工)または断熱工(L工)として、半年以上の就労経験のあった者全員(男性249名)である。 【方法】1. 原死因の分類 : 戸籍により生死を確認し、死亡者については死亡診断書からICD10の定める手順に則り原死因を判定した。2. SMRの算出 : 標準集団とした全国の日本人男性の1950年から2005年までの国勢調査年における5歳年齢階級別死亡率と対応する合計人年とから期待値を算出し、観察値を期待値で割ってSMRを求め、ボアソン分布に従いその95%または90%の信頼区間を求めた 【結果】消息判明人数はB工159名中140名、L工90名中85名であった。1. 職種別死因別SMR : 両職種とも全死因、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患の有意な過剰死亡は認められなかった。しかし、個別死因の検討では、B工では肺癌のSMRは有意な上昇ではなかったものの、悪性中皮腫、石綿肺による死亡例が観察された。また、L工では悪性中皮腫による死亡はなかったが、肺癌の有意な過剰死亡と石綿肺死亡が認められた。【結論】歴史的コホート研究により、わが国においても造船労働に伴う石綿曝露によって、肺癌や石綿肺などの石綿関連死亡が有意に増加していることを明らかにした。今後、更に消息不明者の追跡、医療機関からの情報を基に死因や生存中の健康状況、喫煙情報などを確定していく。また、生存者および遺族調査も検討している。
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