膵がんの予後が極めて悪いことから、早期発見のための血清バイマーカーの同定が重要である。そこで、コホート内症例対照研究という疫学研究方法を用いて、血清anti H.pylori抗体、transforming growth-factor β1(TGF-β1)、C-reactive protein (CRP)と膵がん死亡リスクとの関連を検討した。統計解析ではlogistic regression modelを用いた。文部科学省大規模コホート研究(JACC Study)の参加者を対象として追跡期間を延ばした後の解析では、血清TGF-β1濃度が高いほど、膵がんリスクが有意に上昇していた。最も低い四分の一のグループと比べて、最も高い四分の一のグループの膵がん死亡リスクは約2.5倍に上昇していた。H.pylori感染と膵がんリスクとの関連について、5件の報告があるものの結果は一致していない。今回の分析では、H.pylori陰性者と比べて、陽性者の膵がん死亡リスクは0.63(95%CI0.05-7.38)とリスクを下げたが統計学的有意な関連ではなかった。CRPは、動脈硬化性疾患の重要なリスク予測因子の一つであり、がんリスクと関連することも報告されている。今回の解析では、CRPは対照より症例のほうが高かった。さらに、対照におけるCRP濃度の中央値によって対象者を2群に分け、濃度の低いグループと比べて、濃度の高いグループの膵がん死亡リスクは0.95(0.35-2.56)と統計学的有意な関連が見られなかった。これらのマーカーの組み合わせと膵がん死亡リスクとの関連も検討したが、いずれも有意な関連を認めなかった。今後、さらに新しい血清バイマーカーを探索し、膵がんリスクとの関連を検討することが必要である。
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