がん化学療法が進歩し、予後が期待できるようになった一方、化学療法後に慢性有害事象である認知機能障害を生じることが明らかとなってきた。認知機能障害は集中困難・抑うつなどの精神心理的苦痛を生じ社会復帰の障害や生活の質(QOL)の低下を生じるため、早期から適切な緩和ケアが提供されることが必要である。そこで本研究では、癌化学療法が脳および認知機能にどのように影響を及ぼすかを、磁気共鳴画像(MRI)を用いて形態および生化学的に検討することとした。 抗悪性腫瘍薬の投薬前後での脳画像変化および認知機能、療養生活の質を評価するための対象と評価方法、評価時期、目標症例数などパラメータの設定をおこなうために、先行研究を概観した。その結果、28件の先行研究が抽出された。21件は乳がん、3件はlymphomaを2件は消化器系腫瘍を対象としていた。脳画像評価を行った研究はなかった。以上の概観から当施設での研究計画を立案した。 また、国立がんセンター東病院臨床開発センターに導入された3T MRI (GE製 SIGMA EXCITE 3.0T)で3次元構造MRIを撮像するための測定・解析システムの構築を進めた。ファントムを作成し、撮像のための最適条件を設定するためのシミュレーションをおこなった。撮像した構造MRIをもとに、SPM (Statistical Parametric Mapping)を用いた定量的評価(VBM : voxel-based morphometry)をおこなうための解析システムの構築を同時に進め、信頼性・妥当性の検証をおこなった。今後、上記の予備的検討に基づいて本調査に着手し、化学療法施行前後での脳画像変化の検討をおこなうとともに、認知機能障害の発症するメカニズムを検討する予定である。
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