がん化学療法が進歩し、予後が期待できるようになった一方、化学療法後に慢性有害事象である認知機能障害を生じることが報告されている。この認知機能障害は、言語性記憶や視覚性記憶、精神運動速度の低下、実行機能の低下など多岐にわたり、総称して"chemo-brain"と呼ばれる。認知機能障害は、集中困難・抑うつなどの精神心理的苦痛を生じ社会復帰の障害や生活の質(QOL)の低下を生じるため、早期から適切な緩和ケアが提供されることが必要である。しかし、従来化学療法を評価する上で、急性の中枢神経症状である薬剤性白質脳症やせん妄には注意が払われていたものの、慢性的な有害事象は考慮されなかった。この慢性障害の病態を解明し、効果的な介入方法を計画するには、その発生機序や重症度、療養の質の低下の程度を縦断的に調査する必要がある。 そこでわれわれは、さまざまな抗悪性腫瘍薬がまねく認知機能障害と療養生活の質の低下の程度、その機序を検討した。 抗悪性腫瘍薬の投薬前後での脳画像変化および認知機能、療養生活の質を評価するための対象と評価方法、評価時期、目標症例数などパラメータの設定をおこなった。3テスラ強磁場MRI装置と高感度信号検出コイルを用いて、point resolved spectroscqpy (PRESS)法及びスペクトル編集法によりMRS測定を行った。PRESS法にて得られたN-acetylaspartate(NAA)等をLC (linear combination) modelソフトウェアを用いて解析し、creatine(Cr)信号に対する相対濃度をそれぞれ算出した。スペクトル編集法では、GABAのC4メチレン信号の検出を行った。また3Tesla MRIを用いたγアミノ酪酸の脳内分布の高精度定量に加えて、脳内白質の神経線維変化を測定する拡散テンソル解析の計測を計画した。
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