本研究の主たる目的は乳児突然死症例の中でもうつぶせ寝に代表されるような寝具が関わる症例において、その呼吸環境を評価する方法を確立するために行うものである。麻酔をかけたウサギを気管切開し、チューブを挿入した。チューブの途中に麻酔モニタ用の分岐を挿入し、他端は綿を詰めたパイプないし乳児型人形の鼻孔に接続した。綿を詰めたパイプは低換気環境のモデルであり、人形は寝具にうつぶせにしてそれぞれ麻酔モニタで記録を取った。その結果、二酸化炭素濃度は上昇し、酸素濃度は低下したが、二酸化炭素濃度の上昇に比べて酸素濃度の低下がパーセンテージで1.5倍程大きいことが確認された。また、濃度の変動は初めの数分程度で急激に生じ、その後はほぼ濃度が安定したこと、個体差や麻酔深度の影響があまりないことも確認された。変動幅については概ね環境によって定まっており、ほぼ顔面が解放された環境から、限りなく窒息に近い状況まで多様な結果を得た。ただし、一回換気量と呼吸回数が概ね揃っていたことから、これらの因子の影響にはなお検討が必要である。法医鑑定業務において、乳児突然死症例の中にしばしば寝具が乳児の呼吸環境に悪影響を与えたことを疑わせる症例が見られるが、本研究の結果から悪影響の程度についてはほとんど無関係な場合から窒息が主たる死因となるものまで様々な場合が考えられるため、定量的な評価が欠かせないと考えられた。研究期間内においては動物実験のデータを得るにとどまったものの、従来から行っている人工呼吸器による計測結果とも照合して、人工呼吸器による測定で定量評価が十分であることを示す予定である。
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