横紋筋融解症は、多種多様な薬剤によって引き起こされることが報告されているものの、発症のメカニズムは明らかになっていない。一方、横紋筋融解症を発症するか否かは、個人の遺伝的背景の違いに由来している可能性がある。私たちは、横紋筋融解症を発症したと考えられるベゲタミン中毒の剖検例および覚せい剤摂取剖検例におけるRyanodine receptor 1(RYR1)、Carnitine Palmitoyltransferase II(CPTII)、very long-chain acyl-CoA dehydrogenase(VLCAD)遺伝子、代謝酵素であるCYP2D6およびCYP2C19遺伝子の変異を探索した。 剖検時に採取した血液から常法に従ってDNAを抽出し、ダイレクトシークエンス法で変異を探索した。パラフィン包埋された組織切片(肝臓)から抽出したDNAは、ホルマリン固定時に断片化されており、140bp以下のPCR産物しか増幅されなかったため、変異の探索を断念した。 ベゲタミン中毒の剖検例では、CPTII遺伝子のエキソン4にV3681のヘテロ接合体変異が認められた。CYP2D6遺伝子はCYP2D6*1 alleleとCYP2D6*2 alleleのヘテロ接合体であると考えられた。RYR1遺伝子には2つのsilent mutationが認められた。VLCAD遺伝子とCYP2C19遺伝子には変異が認められなかった。覚せい剤乱用者の剖検例(7例)では、CPTII遺伝子のエキソン4にV3681あるいはF352Cのヘテロ接合体変異あるいはホモ接合体変異が認められた。VLCAD遺伝子では3例にG43Dのヘテロ接合体変異あるいはホモ接合体変異が認められた。RYR1遺伝子では1例にAla(612)Thr変異および全例にSilent mutationが多数認められた。
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