患者数の急増からに新たな国民病とまでいわれているアレルギー性疾患の中でも、食物アレルギーは様々なアレルギー性疾患が連続して発症する「アレルギーマーチ」の引き金となる疾患であるが有効な治療方法は確立されていない。食物アレルギーの発症・病態形成には、全身免疫系よりも腸管粘膜免疫系が大きく関与すると考えられているが、詳細は未だ明らかではない。そこで、ヒト類似食物アレルギー性消化器症状を発症する病態モデルを作製し、腸管粘膜免疫系に着目し、詳細な病態解析を行うと同時に治療薬の探索を行い、葛根湯が有効であることを明らかにした。そこでさらに、病態モデルにおける葛根湯の詳細な作用機序の検討を行った。その結果、葛根湯は、増加した抗原特異的IgE量には影響しないことなど全身免疫系に対しては改善効果を示さないのに対し、過剰亢進した腸管粘膜免疫系を改善すること、粘膜型マスト細胞の増多を抑制することを明らかにした。さらに腸管粘膜免疫系において、遺伝子マイクロアレイによる網羅的分子病態学的システム解析を用いた詳細な機序検討を行った。そして、アレルギー疾患には関与するが食物アレルギーでは全く報告のないサイトカイン・シグナル抑制因子SOCS3が、食物アレルギーの発症や葛根湯の作用に関与していることを明らかにした。また、葛根湯が食物アレルギーモデルで亢進した活性化T細胞に発現するCTLA-4、樹状細胞の抗原提示能を制御するepiregulinを抑制することを明らかにした。これらのことから、葛根湯の作用には腸管におけるエフェクターT細胞の制御に関する免疫制御因子(制御性T細胞、樹状細胞等)が大きく関与し、葛根湯はこれら制御因子を介して腸管粘膜免疫系の破綻を改善し、食物アレルギー消化器症状に対し治療効果を発揮することが示唆された。
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