甘草を含有する漢方薬には、偽アルドステロン症という比較的頻度の高い副作用が知られている。その原因は、含有成分の代謝物グリチルレチン酸(GA)が腎尿細管上皮細胞内に存在する11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(HSD)2を阻害するためとされている。しかし、臨床報告によれば偽アルドステロン症発症患者の血中にはもう一つの代謝物3-モノグルクロニルグリチルレチン酸(3MGA)血中濃度が高いことが報告されているが、3MGAと偽アルドステロン症との関連は不明であった。ラット腎スライスおよび腎ミクロソーム画分に、各化合物とコルチゾールを添加し、コルチゾン生成量により11β-HSD IIに対する阻害活性を測定したところ、腎ミクロソームで各化合物の11β-HSD II阻害活性はGA、3MGA、GLの順だったが、腎スライスでは阻害活性の順番は逆転し、GL、3MGA、GAの順となった。腎スライス組織内への各化合物の分布を測定したところ、GL、3MGAには能動輸送的な取り込みは認められたもののGAでは認められなかった。腎尿細管上皮細胞に発現する有機アニオンを輸送するトランスポーターであるOAT1、OAT3およびOATO4C1をそれぞれ強制発現させたHEK293細胞を用いて各化合物の取り込み試験を行い、3MGAはOATl、OAT3、OATP4C1で、GLはOATP4C1で能動輸送されたが、GAはそれらの基質とはならなかった。GAと3MGAはアルブミン結合率が99%以上と高く、生体では単純拡散では腎組織内へは移行しにくくなるため、ミクロソーム画分でのGAの比較的強い11β-HSD II阻害活性が腎スライスもしくは生体内では起こりにくいものと推測され、甘草の副作用である偽アルドステロン症の原因となる化合物は、GAではなく、3MGAもしくはGLである可能性が高いことが多いに示唆された。
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