研究概要 |
劇症肝炎は極めて救命率の低い疾患であるが、その病態には不明な点が多く、機序を解明することにより救命率を改善させる可能性がある。その原因として最も多いのがB型肝炎ウイルス(HBV)であるが、我々は劇症肝炎の集団発生の原因となった病原性の高いHBV株に着目し、そのウイルス学的特徴と感染細胞に対する影響を明らかにすることを目的とした。 前年度の研究により、このHBV株にはコアプロモーター領域の変異(A1762T/G1764A)とプレコア領域の変異(G1862T,G1896A)を認め、これらの変異が共存すると細胞内のHBV複製中間体が増加し、核内のHBVコア蛋白が増加していることが明らかとなった。また、実際の劇症肝炎患者の肝組織でも同様の傾向が認められていた。この細胞株をトランスフェクションした肝癌細胞株の変化を検討したが、細胞生存性の低下、LDHの放出が認められ、細胞障害が生じていると考えられた。この細胞への影響は上記の変異の有無により変化していた。 さらに、この実験系を用いて薬剤耐性B型肝炎患者の病態を明らかにすることもできた。本研究で構築したHBV genomeを含むplasmidのポリメラーゼ領域の一部を薬剤耐性患者のHBVの配列と入れ替えることにより、この患者のHBVに認められた変異がadefovir耐性に繋がっていることが確認できた。本研究により、劇症肝炎発症の機序の一因を解明するとともに薬剤耐性ウイルス出現の機序の解明にも応用することができ、臨床的に意義のある成果が得られたと考えている。
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