消化管上皮の発生・増殖や腫瘍化においてWnt-betaカテニンシグナルは最も重要なシグナル伝達経路の一つであるが、本研究は消化管における自然免疫系による同シグナル経路の制御機構の解明を目的としている。本研究では当初、両シグナルのクロストークに重要であると予想される蛋白質としてTAK-1及びNLKに着目し、TAK-1やNLKの発現を変化させた状態で、Wnt-betaカテニンシグナルの既知の標的遺伝子の発現が変化するか解析を行った。一方、腸管における自然免疫系の制御に、サイトカイン及びStat3シグナル経路が重要であることが以前から報告されており、自然免疫系とWntシグナルのクロストークに関わるStat3の役割について着目した。まず、消化管癌細胞から自己分泌されるサイトカインによるStat3シグナルの制御機構について解析を行った。消化管癌細胞株の遺伝子発現プロファイルをcDNAマイクロアレイによって解析したところ、炎症性サイトカインが高発現しており、ELISAの手法により培養上清中のサイトカインの発現を蛋白質レベルでも解析した。更に分子生物学的に解析を進め、癌細胞から自己分泌される炎症性サイトカインがStat3シグナルを介して細胞増殖を制御することを解明した。我々は以前に大腸がん細胞においてStat3がbeta-cateninの細胞内局在を変化させることによりWntシグナルを制御することを報告しており、自然免疫系によるWntシグナルの制御におけるメディエーターとしてのStat3の役割につき、今後更に解析を行う予定である。
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