本研究では、選択的スプライシング調節因子であるRNA結合タンパク質Tra2bの転写後調節に注目した。Tra2b自身の転写後調節とその産物の新たな機能の解明を目的とした。細胞を用いた実験より、ストレス曝露により一過性にtra2b4選択的スプライシングmRNAアイソフォームが発現することを認めている。b4 mRNAアイソフォームはタンパク質コーディング領域途中に終止コドン ; premature termination codon(PTC)を持つためTra2bは翻訳されない。このように選択的スプライシングにより、PTCを保持するアイソフォームを産生する機構は、選択的スプライシング調節因子ファミリー(SFRS)に共通していることが報告された。Tra2bは別名SFRS 10といい、このファミリーに属する。さらに、SFRSファミリーのPTCを含む領域は、各々の遺伝子で配列が種を超えてよく保存されており(ultraconserved)、この機構の重要性が示唆された。ノックダウン実験より、癌細胞表面マーカーであり、腫瘍進行や転移との関与が示唆されるCD44の選択的スプライシング調節へのTra2bの関与を認めた。またノックダウンとマイクロアレイを併用した実験より、このアイソフォームと関連が示唆される標的遺伝子候補が、細胞増殖に関与する因子の中で絞られた。現在、それらの遺伝子の挙動を細胞にて、確認中である。標的遺伝子とSFRSアイソフォームによる調節機構をさらに明らかにし、ストレス負荷時の病態の解明に努めたいと考える。
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