研究概要 |
アドレノメデュリン(AM)は1993年に当教室で発見された強力な降圧作用を有する新規生理活性ペプチドである。AMは生体内に広く分布し循環調節因子として重要な役割を果たしていることが明らかにされ、循環器疾患治療薬として有望である。一方、AMには強力な抗炎症・臓器保護作用があることが明らかにされている。実際、本研究代表者は炎症性腸疾患のモデルである酢酸誘発潰瘍性大腸炎モデル動物にAMを投与すると、炎症が抑制され、病態が改善することを明らかにした。本研究ではAMを炎症性腸疾患の新たな治療薬として応用するための基盤的的研究を推進している。今回、AMの炎症性腸疾患(IBD)発症・増悪化抑制効果およびその機序について、dextran sulfate sodium salt (DSS)を用い、腸管上皮層破綻によるマウス腸炎モデルを用い検討を行なった。DSSを摂取させた結果、対照群では顕著な体重減少、下痢、下血などが示されたが、AM投与群ではそれらの症状が著しく軽減した。組織病理学的解析では、対照群では好中球や炎症細胞の浸潤、粘膜上皮の糜爛、筋層の肥厚が顕著であった。方、AM投与群では筋層の肥厚は見られたが、炎症像は顕著に軽減した。サイトカインバランスの破綻は腸炎の発症・増悪化に強く関与する。AM投与群では上皮間T細胞から産生されるサイトカインは、対照群と比較しAM投与群でTh1(IFN-γ)および炎症性サイトカイン(IL-6, TNF-α)の産生が減少し、制御性サイトカイン(TGF-β)は増加した。DSS投与により、tight junction等に関連する分子種が低下するが、AM投与群ではこれらの分子種の低下が軽減され、かつ回復も早かった。以上の結果より、AMは抗炎症および抗菌作用を示すことにより、極めて有効な腸炎治療薬になりうる可能性が示された。
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