「クローン病のマクロファージは脂質に過剰応答する」という仮説の元、H20年に引き続き症例を蓄積した。クローン病患者および健常者からマクロファージを単離し、炎症を惹起すると考えられているオレイン酸、リノール酸、炎症抑制に働くと考えられているリノレイン酸、トランス脂肪酸であるエライディン酸でマクロファージを刺激した。培養上清中に分泌されたTNFα、IL-23、IL-10等のサイトカインは、オレイン酸、リノール酸の刺激によりクローン病患者で亢進していた。クローン病患者と健常人で脂質に対する応答性が異なる原因は培養しているマクロファージの分化状態が違い、抑制型マクロファージの分化マーカーであるCD163の発現が活動性のクローン病患者で低値であり、血球をクローン病患者の血清で培養したところ著明に低下していた。CD163は切断され血漿および血清中で測定できることからELISA法にて測定したところクローン病で可溶性CD163は亢進しており、活動性に相関していた。また可溶性CD163はクローン病の地尾良薬である抗TNF製剤で抑制された。さらに単球に健常人の血清で培養したときに比べ、クローン病の患者血清で培養した時のほうが単球のCD163は低くなることからクローン病の患者から単球のCD163を切断し可溶性CD163に移行させる因子が考えられた。TACE活性や活性酸素、そのほかの表面抗原を測定したが分化誘導因子の同定にはいたらなかった。これらの結果からクローン病患者では血清中の炎症性サイトカイン等が異なるため、単球・マクロファージの分化がより炎症を惹起する方向に分化しており、脂質に対しても炎症性サイトカインを分泌しやすいと考えられた。また可溶性CD163の測定はクローン病患者の活動性の評価に有用であると考えられた。
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