本研究では脂肪性肝炎の発癌プロセスを解明するため、小胞体ストレスとミトコンドリアストレスの役割についての研究を進めている。 本年度は、C57B1/6マウスより単離した初代培養肝細胞に脂肪酸を添加することにより肝細胞内に脂肪滴を誘導させ、酸化ストレスに対する応答性の変化とそれに関連したメカニズムについての検討を行った。これまでの研究で、オレイン酸(シス脂肪酸)を添加した場合よりもエライジン酸(トランス脂肪酸)を添加した場合の方が肝細胞内により多い脂肪滴が誘導され、t-BuOOHの添加による酸化ストレスに対する応答性が亢進していることを示してきたが、本年度の研究ではこの事象における鉄イオンの役割について検討を行った。初代培養肝細胞の培地中にdesferoxamineを添加することによって鉄イオンのキレートを行うと、エライジン酸による脂肪滴の蓄積が軽減し、t-BuOOHの添加による酸化ストレスに対する応答性も低下した。細胞内の鉄イオンはフェントン反応を介してラジカルの媒介になり、酸化ストレスを亢進すると考えられているが、今回の研究結果は鉄を介したラジカルの増加が細胞死にかかわるのみならず、脂肪滴の蓄積自体にも関与していることを示唆しており、ひいては小胞体ストレスの増加、発癌にも関与している可能性が考えられる。これらの結果の一部は平成20年の米国肝臓学会にて発表した。
|