本研究では脂肪性肝炎の発癌プロセスを解明するため、小胞体ストレスとミトコンドリアストレスの役割についての研究を進めた。これまでの研究で、エライジン酸(トランス脂肪酸)を初代培養肝細胞に添加すると、オレイン酸(シス脂肪酸)を添加した場合と比較して肝細胞内の脂肪沈着が亢進し、酸化ストレス刺激に対する応答性の亢進が惹起されることを明らかにしてきた。 本年度は、肥満マウスであるKK-A^yマウスに2%オレイン酸もしくはエライジン酸添加食を摂取させ、トランス脂肪酸摂取による脂肪性肝炎の病態の変化と小胞体ストレスの果たす役割についての検討を行った。オレイン酸とエライジン酸はいずれも肝重量を増加させたが、エライジン酸添加マウスでは血清ASTの上昇と肝細胞の膨化を認め、これらのエライジン酸による肝細胞障害は化学シャペロンの4ーフェニル酢酸の同時投与で抑制された。また、フルクトースの同時投与で脂肪肝を惹起しておくと、エライジン酸の投与によってJNKの活性化が誘導され、肝細胞のアポトーシスをきたした。これらの事象より、エライジン酸は小胞体ストレスを増大させることによって、肝細胞の膨化を介して肝細胞障害を惹起することが示唆された。これらの結果の一部は、平成21年の米国肝臓学会にて発表した。
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