遺伝性心不全の病因ゲノムとその病態形成機構を解明するため、前年度に肥大型心筋症原因遺伝子として同定したCAPP遺伝子(ANKRD1)における変異について拡張型心筋症(DCM)患者集団において検索を行ったところ、4名の患者に3つの新規点変異を特定し、その機能解析の結果、それらの変異はTalin-1やFHL2といった細胞骨格成分等とCARPとの結合性の減少や、メカニカルストレッチ反応性遺伝子群の発現の低下をもたらすことを明らかにした。またそれらとは別にフクチン遺伝子(FKTN)についても同様に変異解析を行った結果、高CK血症を合併する1名のDCM患者に複合へテロ変異を同定し、(FKTN)変異検索が高CK血症を併発するDCM患者に対して有用であることを明らかとした。 一方、これまでにDCMモデルマウスとして作製し、その表現型に性差が存在するラミンA/C点変異(Lmna^<H222P/H222P>)挿入マウスに去勢・避妊を施術し、性ホルモンが心不全病態に及ぼす影響について検討を行った結果、雄Lmna^<H222P/H222P>マウスに対する去勢処置が心不全の発症およびその進行を緩除化し、その結果平均寿命の有意な延長をもたらした。次いで去勢雄Lmna^<H222P/H222P>マウス皮下へ徐放性テストステロンチューブの植え込みを行ったところ、去勢処置によって緩徐化されていた心不全病態が、無処置雄Lmna^<H222P/H222P>マウスと同程度まで促進された。さらに、現在前立腺癌治療薬として利用されているアンドロゲン受容体拮抗薬であるフルタミドの持続的な投与による心不全病態の治療効果を確認した。これらの結果から、雄性ホルモン(テストステロン)は心不全の進行を促進し、より早期に心不全死に至らしめるが、その病態改善にアンドロゲン受容体拮抗薬が有効であることを見出した。
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