肺動脈性肺高血圧症(PAH)では、Angiopoietin-1(Ang1)とその受容体Tie2がその病態に重要と考えられている。我々はGabファミリー蛋白質に注目して以下のシグナル伝達の解析を行った。 (1) ヒト血管内皮細胞でのsiRNAを用いたGab1/Gab2ノックダウンによるAng1/Tie2シグナルの解析 ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)及びヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)でのGabファミリー蛋白質の発現をRT-PCR解析したところ、内皮細胞にはGab1とGab2が発現していた。HUVEC及びHPAECでGab1とGab2をsiRNAでノックダウン(KD)すると、Gab2-KDではAng1依存性のERK1/2及びAKTの活性化が共に遮断されたが、Gab1-KDではAKTのみの部分的な抑制が観察されるのみで、ERK活性化の抑制は見られなかった。 (2) Gab1/Gab2の野生型・優性抑圧型アデノウイルスベクターを用いたAng1/Tie2シグナルの解析 Gab1とGab2の主要な会合分子である蛋白質脱リン酸化酵素SHP2やPI3キナーゼサブユニットp85との会合を特異的に抑圧し得る優性抑圧変異体のアデノウイルスを作成した。これらのアデノウイルスをHUVEC及びHPAECに感染させて、Ang1刺激を行うと野生型Gab2及びGab2のp85会合不能体(Gab2Δp85)の過剰発現下ではERK1/2活性化が増強され、Gab2のSHP2会合不能体(Gab2ΔSHP2)過剰発現下では逆にERK1/2活性化は遮断された。次年度は、この結果をもとにGab2ノックアウトマウスを用いて肺高血圧モデルを作成して解析を進める。
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