容量負荷心不全モデルをベースとして、ドネペジル投与による心筋リモデリングの作用機序の解明が進んでいる。ドネペジルの作用機序としてPI3K/Akt/HIF/VEGFの細胞生存シグナル経が活性化され、さらに心不全という環境下ではドネペジル経口投与によりHIFの誘導が促進され、HIFの誘導に伴う心筋内ANPmRNAの発現が活性化されナトリウム利尿効果が継続的に出現することが分かった。心筋梗塞モデルにおいても治療4週間の観察期間でPI3K/Akt/HIF/VEGFの細胞生存シグナル経路が活性化される事を確認したが、心筋梗塞モデルにおいては容量負荷モデルと比較して心不全進行の時間経過が異なり、ANPmRNAの活性化に伴うナトリウム利尿作用による心筋リモデリングの抑制効果及び心筋保護効果は容量負荷モデルと比較して出現しにくい事が予想された。しかし、ランゲンドルフ還流心による心機能測定では無治療群と治療群での左室機能は長期的には有意差が認められるため、ドネペジル投与によって誘導されるANPmRNAの活性化は低酸素下での心筋保護作用が強く発現されている可能性が考えられた。また、心筋梗塞モデルでは投与容量を減少した群においてもリモデリング抑制作用が観察されている。ドネペジル投与により細胞生存シグナル経路の活性化及びANPmRNA発現の活性化は両モデルで共通しているため、実験系としては心筋梗塞モデルでの治療開始時期の再検討を予定している。
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