当該年度は本研究の2年目にあたり、酸素濃度感知システムの中心分子であるProlyl hydroxylase domain protein (PHD)阻害が心血管系に保護的に作用するという仮説に基づいて解析を行ってきた。 まず、心血管病進展に重要な役割を果たすレニン・アンギオテンシン(Ang)系に与える影響を、培養血管平滑筋細胞を用いて検討した。PHD阻害剤であるコバルトやDMOGを処置すると、AngII 1型受容体の発現を有意に抑制することを見いだした。また、AngII持続注入マウスモデルに、PHD阻害剤であるコバルトを投与すると、血圧非依存性に心筋細胞間質の線維化を有意に抑制することを見いだした。次に、心血管病変の進展において重要な役割をはたすマクロファージにおける急性炎症反応に対するPHD阻害の影響を検討した。培養マクロファージRAW264.7細胞を急性炎症誘発物質であるリポ多糖で刺激すると、著しいTNF-alphaを代表とする急性炎症物質産生が誘導される。そこのPHD阻害剤であるコバルトやDMOGなどを前処置しておくと、リポ多糖によるTNF-alphaの発現を有意に抑制させることを見いだした。最後に、PHD2阻害の心筋細胞における効果を検討するために、PHD2を心筋細胞特異的に欠損するコンディショナルノックアウトマウスを作成した。心臓において心筋保護的に作用しうるHIF標的遺伝子であるHO1やVEGFの増加が確認された。心筋細胞においてPHD2がHIFの主要な調節因子であることが明らかとなった。PHD阻害は血管新生因子誘導のみならず、心筋保護遺伝子誘導、抗炎症作用、抗Ang作用により、心血管保護的に作用する可能性が示唆された。
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