Raltは、ErbBファミリーだけではなく、Cdc42やGrb2など他の細胞内アダプター分子と結合することが報告されているが、心筋細胞においてRaltと結合能を有する内在性のアダプター分子に関しては不明なままであった。そこで、本年度はRaltと結合する内在性分子の同定を試みた。 6xHisタグ融合Raltを発現させた心筋細胞(H9c2細胞)から総タンパク質を抽出し、抗6xHisタグ抗体ビーズによるアフィニティー精製を行い、Ralt複合体を単離した。質量分析の結果、これら複合体の中にアダプター分子として知られる14-3-3タンパク質が含まれていた。 14-3-3タンパク質には、7種類のアイソフォームが知られている。免疫沈降法を用いた解析により、少なくともRaltはこの内の5種類(beta、gamma、sigma、theta、zeta)の内在性14-3-3タンパク質と結合能を有することがわかった。また、Raltの部分的な欠損ミュータントを用いた解析において、14-3-3との結合にはアミノ酸配列の246~253番目にある領域が重要であることを明らかにした。さらに、この領域内にある250番目のセリン残基をアラニンに置換したRaltミュータントでは、14-3-3との結合が抑制されたが、248番目のセリンの置換は抑制効果がなかった。 一方、14-3-3 thetaにおいて、49番目のリジンをグルタミン酸へ、176番目のバリンをアスパラギン酸に置換したミュータント(K49E/V176D)は、ターゲット分子とのリン酸化依存的な結合能が失われることが報告されている。そこで、K49E/V176Dを作製し、同様に免疫沈降法による解析を行い、Raltとの結合に及ぼす影響を調べた。その結果、この2つの変異によりRaltとの結合は強く抑制された。このことから、Raltと14-3-3との結合は、Raltのリン酸化(特に250番目のセリンのリン酸化)に依存するのではないかと考えられた。そこで、精製したRaltタンパク質をセリン-スレオニンフォスファターゼであるPP-1で処理を行い脱リン酸化させた後、14-3-3 thetaとの結合実験を行った。その結果、予想とは異なり、PP-1処理を行ったRaltも14-3-3 thetaとの結合能を未処理のRaltと同様に保持していた。 以上の結果から、Raltは心筋細胞内において多くの14-3-3アイソフォームと結合し、この結合はRalt分子内のセリンやスレオニンのリン酸化状態には依存しないことが明らかとなった。これまでに、14-3-3タンパク質は、アポトーシス誘導に働くBaxや、Bad、FoxOといった分子を細胞質内に留め、この分子の作用を抑制する働きを持つことが知られている。酸化ストレスによって心筋細胞内で発現したRaltは、14-3-3と結合することで、これら分子を解離させ、ミトコンドリアや核内への移行を促進する可能性が考えられる。
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