本研究は、レーザーマイクロダイセクション法(LMD法)を用いて、高血圧性肥大心の心筋細胞、血管構成細胞、血管周囲浸潤細胞を選択的に分別採取し、各組織別に遺伝子解析を加え比較検討することにより、心筋肥大、心筋線維化、血管リモデリング、炎症細胞浸潤などのメカニズムを細胞群ごとに明らかにし、それらの相互関係を解明することによって、根本的な高血圧性臓器障害の治療法を開発することを目標にしたものである。 脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHR-SP)と正常血圧ラット(WKY)を飼育し、血圧正常期の3週令から、高血圧性臓器障害期の24週令までの血圧・体重、心エコー図による左室肥大・左室機能を測定した。SHR-SPでは4-5週齢から有意に血圧が上昇した。その後血圧は経時的に上昇した。20週齢より脳卒中と突然死により死亡する個体が出現し24週齢までに生存率は約75%となった。WKYでは全期間中血圧の変化はなく、死亡した個体はなかった。 SHR-SPを20週齢で屠殺し心筋リモデリングの組織学的、分子生物学的検討を行った。同週齢のWKYに比して著明な心筋肥大、心筋内血管中膜肥厚が認められた。線維化に関しては血管周囲に反応性線維化を軽度認めたが明らかな置換性線維化は見られなかった。また、炎症細胞浸潤もWKYとほとんどに変わりなかった。LMD法で心筋と血管、血管周囲組織を個別に採取した。各組織別にRNAを抽出した。血管周囲組織からはごく微量しかRNAを抽出し得ずRT-PCR法やジーンチップ法で解析可能な品質のRNAは現時点で得られていない。心筋組織では心筋肥大遺伝子マーカーBNPが著増していたが平滑筋マーカー平滑筋ミオシン(SM)発現は見られなかった。血管組織ではSMが著増していたがBNPは認めなかった。以上から、LMD法により心臓内の組織特異的なサンプル回収と遺伝子発現解析する手技を確立した。
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