核内受容体ファミリーの1つであるperoxisome prolieferator-activated receptors(PPARs)は、細胞の増殖・分化や細胞死制御に重要な役割を担うリガンド依存的転写因子である。PPARは最近の研究から癌の増殖や進展にも深く関与することが明らかにされており、新たな癌治療の標的分子として期待されている。一方、血管新生因子は腫瘍の血管形成や転移など悪性化の過程にも関与することが報告されている。本年度には、PPARを介した血管新生抑制因子collagen XVIIIの肺癌における発現調節機構について検討し、そのメカニズムを明らかにすることを目的とした。ヒト肺癌細胞PC-14(腺癌)及びRERF(扁平上皮癌)を用いて、PPARgamma ligandによりcollagen XVIIIの発現に及ぼす影響を検討した。用いた2種類の細胞がPPARgammaを発現していることをRT-PCRで確認した。また、この2種類の細胞ともPPARgamma ligandである、troglitazone及びciglitazoneで用量依存性に細胞増殖が抑制されたことから、確かにPPARgamma ligandが作用していることが確認された。Real-tine PCRでは、これらの細胞で、troglitazone及びciglitazoneは用量依存性にcollagen XVIII mRNAの発現を抑制させることが明らかになった。Western blotによりcollagen XVIIIの蛋白量も抑制することが明らかにできた。Collagen XVIIIは血管新生抑制因子であるendostatinの前駆体であるが、この発現低下は肺がんの予後改善と相関することが臨床的に明らかにされており、PPARgamma ligandにより肺がんの化学予防が生じるとの最近の臨床データーを裏付ける根拠の一つとして、PPARgamma ligandがcollagen XVIIIの発現を低下させることが関与する可能性を示唆できた。
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