特発性肺線維症(IPF)は慢性進行性の肺線維化疾患で、予後不良でその発症機序は不明である。申請者は前年度までに、細気管支肺胞上皮特異的Pten欠損マウスを用いてブレオマイシン(BLM)肺線維症モデルを作製し、細気管支肺胞上皮でのPten発現は肺線維症の発症制御に決定的に重要であることを突き止めた。今年度は、1. 上皮Pten欠損による肺線維症増悪のメカニズム、2. Akt阻害剤を用いた新規分子標的治療の検討、3. ヒトIPF症例でのPTEN発現動態について解析した。野生型及びKOマウスにBLMを気管内投与し、肺炎症細胞集族と肺血管透過性および基底膜傷害を評価した。細気管支肺胞上皮特異的EGFP発現マウスを用いて、上皮Ptenが与えるEMTへの影響をin vivoで検討した。Akt阻害剤による肺線維症への治療効果を評価した。ヒトIPF症例における肺上皮PTEN・pAKT発現を免疫染色で評価した。結果、肺傷害後の炎症細胞集簇に両群に差はなかったが、KOマウスでは肺傷害後の肺血管透過性と基底膜破綻が亢進していた。KOマウスでは、肺上皮傷害後における肺線維芽細胞の増殖能、遊走能、アポトーシス抵抗性、分化能が亢進していた。肺上皮Pten欠損マウスにて、肺上皮傷害後のEMTが亢進していた。Akt阻害剤投与にてKOマウスでの肺線維化が軽減し生存率が改善した。ヒトIPF症例では肺上皮細胞でのPTEN発現が減弱し、pAKT発現が亢進していた。以上のことから、肺上皮でのPten発現は肺線維芽細胞活性化と基底膜維持並びにEMTを制御し、肺線維症発症抑制に重要な役割を有すると考えられた。さらに、Pten/Akt経路が現在有効な治療法のないIPFの分子標的に成り得る可能性が示唆された。
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