中皮腫は主に胸膜や腹膜に発生する腫瘍で、アスベストのばく露歴が発症に深く関与している。過去のアスベストの使用状況から、今後数十年間に中皮腫患者数が増加すると予測されているが、現在、有効な治療法が確立されておらず、予後は極めて悪い。このことから、新たな治療法・治療薬の開発が切望されている。そこで、中皮腫の新たな治療薬開発のためのターゲット分子の探索を目的として研究を行った。昨年に引き続き、初年度にsiRNAライブラリーを用いた機能スクリーニングにより同定した、中皮腫治療に対する候補遺伝子の治療効果の検討を行った。昨年治療効果の検討を行ったCOPAと同様にCOPIタンパク質のサブユニットの一つであるCOPB2と抗がん剤の新規ターゲットとして報告のあるPOLR2Aの2遺伝子について、機能解析およびモデルマウスを用いた治療効果の検討を行った。中皮腫細胞株において、siRNAを用いてそれぞれの遺伝子を発現抑制するとアポトーシスが誘導され、細胞の生存率が著しく低下することが明らかになった。また、中皮腫細胞を皮下移植したマウスの腫瘍にこれら遺伝子のsiRNAを2回局所投与し、腫瘍体積の測定を行った。COPB2のsiRNAを投与した腫瘍は、投与後1週間は腫瘍の増殖が停滞したが、その後は再増殖を始めた。POLR2AのsiRNAを投与した腫瘍の増殖は抑制されなかった。これらのことから、今回検討した候補遺伝子、COPB2およびPOLR2AのsiRNAには、腫瘍の増殖を抑制する効果は見られず、これら遺伝子は、中皮腫治療の新規ターゲットとしては不適当であった。
|