研究概要 |
本研究の目的は、糸球体と尿細管・間質部にmicrodisectionしたヒトII型糖尿病性腎症腎生検組織において、cDNAアレイ法によりgenome-wideに網羅的遺伝子発現解析を行い、糖尿病性腎症進展に関わるpathway並びに転写調節機構を解析し、新規創薬ターゲットを同定することである。これまでの研究成果により、ヒトII型糖尿病性腎症腎生検組織尿細管・間質部において、発現変動する遺伝子群を同定し、バイオ・インフォマティクス解析を行うことで、尿細管・間質部においてNF-κB target遺伝子群の発現亢進、さらにはNF-κBとinterferon regulatory factor(IRF)の2つの転写因子が相乗的に作用して、RANTESなどの遺伝子発現を制御していること、また上皮細胞増殖因子(EGF)や血管内皮細胞増殖因(VEGF)-A発現が低下していることを報告した。これらの成果に基づき本研究では、(1)糖尿病性腎症におけるNF-κB、IRF発現亢進の機序解明と治療法の確立、(2)ヒトII型糖尿病性腎症生検組織よりmicrodisectionした糸球体における網羅的遺伝子発現解析、を行う。平成20年度の成果として、共同研究するドイツ・ミュンヘン大学において確立されたヒト腎生検組織のmicro disection技術の確立に努めた。さらに米国腎臓学会において、ドイツ・ミュンヘン大学、米国・ミシガン大学に加え、スイス・チューリッヒ大学の研究者と協議し、共同研究計画を立案した。今後、日本の腎生検組織よりmRNAを抽出し、Agilent techndogy社のWhole Human GenomeオリゴDNAマイクロアレイを一色分析法により感度を改善して、cDNAアレイ法によるヒト糖尿病性腎症糸球体部の網羅的遺伝子発現解析を行う予定である。またcDNAアレイ法により得られた結果を効率的に解析するために、バイオ・インフォマティクス・ツールが不可欠である。これまでに確立されたPathway解析(dChip、SAMソフトウェア、Gene Ontolgy, DAVID, Ingenuityソフトウェアによる)による、詳細な解析を予定している。さらにGenomatixソフトウェアによる転写調節機構の解析についてもライセンスを有する共同研究機関との連携において進める予定である。
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