研究概要 |
研究の目的;アルドステロン(ALDO)による腎線維化のメカニズムとオステオポンチン(OPN)の関与及びOPNを直接制御することが、腎機能障害のひとつの治療ターゲットとなりうることを証明することである。 研究の方法;27-30gのOPN欠損マウスまたはC57/BL6Jマウス(WT)を用いて,片腎摘出・1%NaCl水負荷を行い,浸透圧ミニポンプにてALDOもしくはVehicleを持続注入した.4週後,血圧・尿中アルブミン排泄量・血液生化学検査・形態学的変化(PAS染色・マッソントリクロム染色)・免疫組織学的検査・real time PCR法による遺伝子発現量・Western blot法・ELISA法によるタンパク発現量を4群間で比較・検討した. 研究成果;血清BUN・Crに関しては,4群間に差を認めなかった.ALDO投与群では,Vehicle群と比較して血清K濃度は有意に低下したが,WT群とOPN KO群では有意差を認めなかった.WT群においてALDO負荷は,血圧,一日尿中アルブミン排泄量,OPN及び線維化関連遺伝子であるフィプロネクチン,I・III・IV型コラーゲン遺伝子発現を有意に増加させた.さらにマッソントリクロム染色では,尿細管間質の線維化が著明に増強された.免疫組織染色では尿細管にOPNの発現増加を認め,FSP-1(線維芽細胞)やF4/80(マクロファージ)陽性細胞の尿細管間質への浸潤を認めた.さらにWT群においてALDO負荷は,酸化ストレス関連因子(p47phox, p67phox, gp91phox)の遺伝子及び蛋白発現増加を示した.また酸化ストレスマーカーである尿中8-イソプロスタン排泄量が有意に増加を示した,一方OPN KO群では,ALDOによる血圧上昇はWT群と比較して差を認めなかったが,尿中アルブミン排泄量は有意に低下し,腎線維化も著明に抑制されていた.また,尿細管間質への線維芽細胞やマクロファージの細胞浸潤は抑制され,それぞれの線維化関連遺伝子発現や酸化ストレス関連因子発現及び尿中8-イソプロスタン排泄は有意に抑制された. 研究の重要性;以上の結果からALDOによって誘導される腎線維化は,OPNの発現を抑制することで改善した.ALDOは,OPNを介して線維芽細胞増殖やマクロファージを遊走させ,酸化ストレス・炎症および線維化関連因子の発現を惹起することで腎線維化を起こしていることが示唆された.近年,局所炎症性疾患である関節リウマチにおいて,抗OPN抗体を用いた治療の臨床試験が開始されている.これまでの申請者らの検討では,ALDOによって誘導されたOPNは,炎症性疾患である動脈硬化性疾患や腎線維化の直接的な原因と考えられ,OPNを直接制御できれば,腎障害進行を阻止できるのではないかと考えている.そのOPNの発現調節機構や活性化制御機構の解析は,RAS系阻害薬以外の腎障害に対する治療の選択肢が広がり,将来のCKDを含めた腎障害の治療戦略を確立するうえで大きな意義を持つ.
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