トレースバックというプリオンの性質を利用すればプリオンの由来を同定ることが可能であることを実験的に証明するために、孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病-VV2(sCJD-VV2)プリオンを用いて感染実験を行った。まずsCJD-VV2プリオンを129M/Mヒト型マウスに脳内接種し、このプリオンをさらに129M/Mヒト型マウスと129V/Vヒト型マウスに腹腔内接種した。すると129M/Mヒト型マウスで継代したにも関わらず、129V/Vヒト型マウスの方が高い感受性を示した。さらに129M/Mヒト型マウスでは中間タイプだった異常型プリオン蛋白が129V/Vヒト型マウスに感染するとタイプ2に変化することが分かった。これは由来となったプリオンがsCJD-VV2プリオンであったため、129V/Vヒト型マウスへ感染しやすく、129V/Vヒト型マウスへ入ると元のタイプ2に戻ったということを示唆している。これらの結果はトレースバック実験がプリオンの由来を明らかにする上で有用な手段となることを示している。 孤発性CJD-MM1(sCJD-MM1)であるものの脳内に多数のプラーク型プリオン蛋白沈着を伴う非典型的な症例が存在する。この症例は脳外科手術歴があるものの硬膜移植は行われていなかったことからsCJDとされているが、トレースバック実験を行って感染によって引き起こされた可能性がないか検討した。患者脳組職ホモジネートを129M/Mあるいは129V/Vヒト型マウスに脳内接種し、現在経過を観察している(接種後300日経過)。トレースバック実験の結果、感染による医原性CJDが疑われることになれば脳外科手術もCJDのリスクファクターと考え、感染防止対策を徹底する必要が出てくる。
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