我々は以前、孤発性CJD-MM1であるにも関わらず脳内に多数のプラーク型プリオン蛋白沈着を伴う症例(MM1-PL)を報告した。これまでMM1でプラーク型沈着を伴う症例はプラーク型硬膜移植関連CJD以外には知られていない。このMM1-PLがプラーク型硬膜移植関連CJDと同じく孤発性CJD-VV2患者からの医原性プリオン感染によって引き起こされた可能性がないか調べるために、ヒト型プリオン蛋白ノックインマウスを用いたトレースバック実験をおこなった。するとMM1-PLプリオンはプリオン蛋白遺伝子コドン129の遺伝子型が129M/Mであるにもかかわらず、129V/Vヒト型マウスへ感染しやすく、129V/Vヒト型マウスに感染すると孤発性CJD-VV2プリオンを接種した時と全く同じ潜伏期間および神経病変を示すことが明らかになった。そしてMM1-PLの感染性および神経病変は孤発性CJD-MM1のものとは全く異なっていた。これらの結果はMM1-PLが孤発性CJD-VV2プリオンの感染によって引き起こされた可能性を示唆している。また、このMM1-PL症例は脳外科手術歴があるものの硬膜移植はおこなわれていないことから、脳外科手術による医原性感染の可能性が強く示唆された。これまで日本国内において脳外科手術による医原性CJDの報告はなく、疫学的には脳外科手術は医原性CJDのリスクファクターとは考えられていなかった。しかし本研究により脳外科手術による感染が明らかとなった以上、脳外科手術もリスクファクターとして考え、感染防止対策を徹底する必要性が示された。
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