本研究は運動ニューロンの進行性変性を特徴とする筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態解明と治療法開発をめざす基礎的研究である。本研究課題では、運動ニューロンをとりまく細胞外微小環境の中で微小血管系とニューロン/グリア細胞のつながりに注目し、とくに微小血管新生の本病態における役割を解明するために計画された。前年度の研究により、ALSラットモデルの脊髄前角では運動ニューロン変性とともに微小血管系の再構築が生じていることが明らかとなり、運動ニューロン変性と関連した微小血管系の障害とそれに対抗する内在性の血管新生機転の存在が示唆された。これをふまえ、平成21年度は発症後早期より血管新生促進因子の脊髄腔内投与を行い、微小血管新生促進効果と運動ニューロン変性抑制効果を検討した。 発症後のALSラットモデルに腰椎レベルから浸透圧ポンプによって脊髄腔内に細小カテーテルを通して14日間持続的に肝細胞増殖因子(HGF)を投与すると、溶媒投与群に比較して有意に微小血管新生が促進された。HGF投与群では微小血管バリア抗原の発現増加、運動ニューロン保護、グリオーシス抑制が明らかとなり、活性化型HGF受容体の発現はニューロン、活性化アストログリア、および血管内皮細胞の一部に認められた。HGFの運動ニューロン保護効果はすでに研究代表者らの施設から報告されているが、同時にHGFは強力な血管新生促進因子でもある。本研究結果により、微小血管系がALSのような神経変性病態において重要な治療標的となる可能性が示唆される。
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