筋萎縮性側索硬化症(ALS)は現在まで有効な治療法がほとんどなく、早急に病因の解明と治療法の確立が求められている。近年、ALSのモデルマウスである変異SOD1マウスでは週齢および組織依存的に、変異SOD1が運動神経の小胞体(ER)に蓄積し、ERストレスによってアポトーシスを来し、運動ニューロンが死滅することが明らかにされた。ERシャペロンBipはERストレスのトリガーであるとともに、折りたたみ不良蛋白の再折りたたみや細胞質への逆行性輸送など種々の機能を有することが報告されている。またDerlin-1は、近年折りたたみ不良蛋白の細胞質への逆行性輸送の中心的局面を担うことが明らかにされた。BiPのSOD1発現に及ぼす影響を解明するために、野生型もしくは変異型SOD1発現細胞においてsiRNAを用いてBiP発現を抑制したところ、用量依存的に変異SOD1含量が増加し、ERストレスによるアポトーシスの実行系であるCHOPの誘導により変異SOD1発現細胞のアポトーシスを引き起こすことが明らかになった。さらにBipを野生型もしくは変異型SOD1発現細胞に過剰発現すると、ERへの変異SOD1蓄積が軽減され、変異SOD1蛋白の分解が促進された。一方Derlin-1のSOD1発現に及ぼす影響を解明するために、Derlin-1を野生型もしくは変異型SOD1発現細胞に過剰発現すると、ERへの変異SOD1蓄積が軽減され、変異SOD1蛋白の分解が促進されることが明らかとなった。BiPおよびDerlin-1は細胞質への逆行性輸送を促進することにより小胞体関連分解を引き起こし、変異SOD1のER内蓄積を軽減することが示唆された。今後発症前後の変異SOD1マウスにアデノ随伴ウイルスベクターを用いて、BipもしくはDerlin-1の遺伝子導入を行い、小胞体ストレスを軽減する遺伝子治療を行うことを予定している。
|