筋萎縮性側索硬化症(ALS)は成人発症の致死的な麻痺性疾患であり、大脳運動皮質、脳幹部および脊髄前角細胞の運動ニューロンの変性と脱落を特徴とする。今日まで有効な治療法はなく、大部分の患者は呼吸筋麻痺のため3~5年で死に至ることから、早急な病因の解明と治療法の確立が求められている。近年、ALSのモデルマウスである変異SOD1マウスでは週齢および組織依存的に、変異SOD1が運動神経の小胞体(ER)に蓄積し、ERストレスによってアポトーシスを来し、運動ニューロンが死滅することが明らかにされた。このERストレスを軽減する可能性のある以下の2分子についてERストレス軽減効果を検討した。1)小胞体関連分解の中心的存在であるDerlin-1のSOD1発現に及ぼす影響を解明するために、Derlin-1を野生型もしくは変異型SOD1発現細胞に過剰発現すると、ERへの変異SOD1蓄積が軽減され、変異SOD1蛋白の分解が促進されることが明らかとなった。Derlin-1は細胞質への逆行性輸送を促進することにより小胞体関連分解を引き起こし、変異SOD1のER内蓄積を軽減することが示唆された。今後発症前後の変異SOD1マウスにアデノ随伴ウイルスベクターを用いて、Derlin-1の遺伝子導入を行い、小胞体ストレスを軽減する遺伝子治療を行うことを予定している。2)パーキンソン病関連蛋白DJ-1は抗酸化作用や抗アポトーシス作用に加えて、小胞体ストレス軽減効果が報告されており、変異SOD1によって誘導されるERストレスの軽減効果について検討した。DJ-1は抗酸化作用や抗アポトーシス作用を介して、変異SOD1毒性を軽減したが、小胞体ストレスのマーカーの一つであるCHOP発現には影響を及ぼさず、変異SOD1毒性に伴う小胞体ストレスには効果が乏しいことが疑われた。
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