本研究の目的は、遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia:HSP)の家系サンプルを用いてその原因遺伝子を同定することである。研究の実施は以下のように行い、それぞれの結果を得た。 1.継続的なサンプルの収集:2年間で1家系2世代のサンプルを発症者、非発症者を含めて9例を集めた。サンプリング前に急逝された方が生じた分、当初の見込みとした3世代分に届かなかった。2.シークエンスによる変異検索:SPG3A、SPAST、NIPA1の3遺伝子については日本人での変異が報告されている。今回の研究でもアミノ酸置換・スプライシング変異を起こしうる変異の検索を行った。NIPA1(Non-imprinted in Prader-Willi/Angelman syndrome region protein 1)遺伝子のN末端においてアミノ酸置換変異を同定したが収集した発症ケースで変異を持たないものがいたため、この家系での原因変異ではないと判断した。3.染色体構造異常解析:今回、発症者共通の同祖領域を求めるために用いたSNPアレイのデータから染色体構造異常解析も行ったが、疾患の原因変異と考えられる構造異常はなかった。SPAST遺伝子では欠損例も報告されているが、今回の実験結果は否定的であった。4.SNPアレイを用いた原因遺伝子の探索:最終的に集められた9例のうち、非血縁のものを除いた8例で同祖領域の探索を行った。結果として染色体1番と22番の一部に候補領域が絞られた。1番染色体の候補領域は593遺伝子を含み、過去に報告例があるHSPのSPG29候補領域と重複していた(重複内に存在する遺伝子数は134)。 当初予定していた3世代分のサンプル収集が出来なかった分、候補領域の限定が予想を下回った。それ以外については発端者の家族以外の親戚からも協力を得ることが出来、新規のHSPである可能性が高いことも確認できた。 今後は本研究成果に基づき、候補領域の遺伝子を高出力シーケンサーによる当該変異の検索を進めていく。
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