本研究は、グルタミン酸受容体の一つであるN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体の共作動因子 : D-セリンが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態および病勢にどのように影響しているかを検討することが目的である。本年度は、D-アミノ酸オキシダーゼ(DAO)という生体内で唯一のD-セリン分解酵素のノックアウトマウスを用いて、ALSモデルであるG93A-SOD1トランスジェニックマウス(mSOD1tgマウス)と交配することによってALSの病勢がどのように変化するかを検討した。mSOD1tgマウスとDAOノックアウトマウスを2代交配することにより、DAOホモ欠損のmSOD1tgマウスを得た。この得られたマウスをrotarod試験を用いて行動解析した結果、ALSの病勢はDAOをノックアウトすることによって増悪する傾向にあったものの、寿命に対しては有意な影響を認めなかった。DAOノックアウトマウスでは、小脳から脊髄にかけてのD-セリン濃度が上昇し、セリン以外のD-アミノ酸の中枢神経系濃度も変化させる。特にアラニン、ロイシン、プロリンのD体アミノ酸の上昇を認める。D-アラニンは、強度は弱いもののグルタミン酸受容体に結合することが知られている。従って、今回DAOノックアウトによって得られたALSの病勢増悪傾向は、純粋にD-セリンの増加に関連していると結論付けることはできないものの、D-アミノ酸の中枢神経系の増加によって、ALSの病勢が進行するという新規の知見が本研究によって得られた。
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