本研究では、D-セリン上昇が筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態にどのように関連しているかを明らかにし、治療標的を開発することが目的である。平成21度までの検討で、D-セリン分解酵素(DAO)のノックアウトマウスとALSモデルマウスの掛け合わせによって、ALSの病態が悪化することを明らかにした。本年度において、DAOノックアウトALSモデルマウスの脊髄中D-セリン量を2次元HPLCにて定量分析したところ、D-セリンはDAOノックアウト非ALSマウスと比較してやや多いものの顕著には差を認めなかった。このことは、ALSにおけるD-セリンの上昇はD-セリン合成酵素(SRR)の発現上昇による寄与よりもDAOの活性低下による寄与が大きいことを示唆していた。次に、実際、ALSモデルマウスの脊髄中のDAO活性を測定したところ、野生型マウスと比較して50%程度にまで減少していた。また、その他の部位(DAOの発現が豊富な小脳、腎臓)のDAOの活性低下は認めないことから、DAOの活性低下は病態特異的であることが考えられた。これまで我々は、SRRがALSの病態に伴って発現上昇することが、病態増悪の鍵であると考えていたが、これらの結果からDAOの活性低下がALSの病態により重要であることが明らかとなった。家族性ALSの原因遺伝子としてもDAOが近年発見されたことも考慮すると、本研究で明らかとなった新規の知見により、DAOの活性が、ALSの治療標的として非常に重要であることが強く示唆された。
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