本研究は、加齢性神経変性の原因のひとつとして、細胞内蛋白分解系であるユビキチン-プロテアソーム系及びオートファジー系の機能不全が関与している、という仮説を検証する目的で計画した。老化に伴い神経変性を自然発症するSAMP10マウス由来の初代培養神経細胞にプロテアソーム阻害剤を負荷すると、コントロール系由来の細胞に比べて有意にユビキチン化封入体が形成されやすい。そのひとつの要因として、プロテアソーム阻害により起こるべきオートファジーの誘導が弱い可能性を考え、ビデオ強化微分干渉顕微鏡(VEC-DIC)によるオートファゴソーム形成のリアルタイムイメージングや、オートファゴソーム形成の生化学的マーカーであるLC3の修飾のウェスタンブロットによる検出を試みた。しかし、いずれの系でもSAMP10ニューロンとコントロールニューロンとの間に有意な差を見出すことができなかった。オーファゴソームを形態学的に検出する手法の感受が不十分であった可能性が考えられ、今後オートファゴソームを蛍光ラベルするbaculovirusを利用したトランスフェクションの系を導入し、更なる検討を進める予定である。一方、ヒトの神経変性疾患である多系統萎縮症において観察されるグリア細胞内封入体の性質に関する研究も行い、その結果、これらの封入体が、プロテアソーム阻害などの際に形成されるアグリゾームと同様の性質を持つことを見出した。プロテアソーム活性低下等に起因する蛋白分解ストレスが、多くの加齢性神経変性疾患に共通する病態形成メカニズムであることが示唆された。これらの病態におけるオートファジーの関わりについても、今後培養系でモデルを構築して検討を進める予定である。
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