NAD+依存性のタンパク脱アセチル化酵素であるSirt1は、FoxO1などの基質の脱アセチルを介してインスリン感受性・代謝を制御することが報告されているが、Sirt1の中枢性代謝制御への役割は未解明である。そこで、Sirt1が視床下部で摂食行動・エネルギー代謝制御機構を調節するというかどうかを検討した。 その結果、以下の点が明らかとなった。(1)Sirt1は視床下部でAgrp及びPomc陽性ニューロンで発現している。(2)Sirt1の視床下部におけるタンパク量は、絶食後の再摂食で増加する。この変化はRNAレベルでは見られない。(3)Sirt1は視床下部および視床下部培養細胞N41においてユビキチン修飾を受け、プロテオソーム阻害剤存在下でタンパク量が増加する。(4)マウスの視床下部内側基底部へのSirt1発現ウイルスのmicro-injectionによるSirt1の強制発現は、核内滞留型Foxo1による摂食過剰・体重増加を有意に抑制する。(5)Sirt1は摂食促進性神経ペプチドをコードするAgrpプロモーターの活性を抑制し、AgRPの発現を抑制する。この効果にはSirt1酵素活性が必須である。また、核内滞留型Foxo1によって亢進したAgrpプロモーターの活性をSirt1は抑制する。なお、Sirt1はPomcプロモーター活性には影響を及ぼさない。 以上より、栄養素もしくは成長因子等の食事性の変化が視床下部に伝わり、その結果としてSirt1タンパク量が増加し、摂食促進性神経ペプチドAgRPの発現を抑制して、摂食の停止が起こるメカニズムが示唆されるということを解明した。
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