研究概要 |
1.遺伝子欠損マウスを用いた個体レベルでの機能解析 本候補遺伝子の遺伝子欠損マウスは、脂肪をカロリー比で32%含む餌を8週間摂取することにより、インスリン分泌不全を伴った耐糖能の異常を認めた。また単離膵島における検討でも,グルコース応答性の刺インスリン分泌に低下を認めた。さらに、膵島面積の24%の低下を認め、膵島のPCNA染色陽性で増殖中の細胞は36%低下していた。これらの結果から、本遺伝子は、膵β細胞の機能および量を調節して、インスリン分泌を促進すると考えられた。また、本遺伝子欠損マウスでは、脂肪重量が減少し脂肪細胞が小型化しており、TNFαの発現が低下しており、インスリン感受性に関与している可能性が示唆された。 2.遺伝子欠損マウスの膵島のDNAチップによる遺伝子の検討 膵島のmRNAの発現変化をAffymetrix社のGene Chipでの網羅的解析により、インスリン分泌を低下させる分子メカニズムを検討した。パスウエイ解析で、Wntシグナルの減弱が認められた。蛋白量でもWnt3a, Wnt5aの発現が低下し、GSK3βのリン酸化が25%抑制され、Pdxの発現が低下していた。MIN6培養細胞においてsiRNAで本遺伝子を抑制すると、増殖能が低下した。これらの結果から、本遺伝子は、Wntシグナルを活性化することで、膵β細胞の機能および量を調節すると考えられた。 3.ヒト脂肪組織における発現量とSNPとの関連の検討 形成外科手術の際の皮下脂肪組織72人において、本遺伝子のmRNA発現を検討した。本遺伝子のエクソン1にある一塩基多型SNP19のCCアレルを持つと、AAアレルに比較して、糖尿病になりやすく、本遺伝子の発現が有意に低下していた。ヒトにおける本遺伝子.遺伝子多型に伴う発現量の低下が、糖尿病の発症に関与していると考えられた。マウス膵島における機能解析の結果と一致して、ヒトにおいてもインスリン分泌低下を介して糖尿病発症に関与する可能性が示唆された。
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