研究概要 |
過栄養・肥満がもたらす生活習慣病の発生と維持において,栄養代謝の中心である肝臓の役割を明らかにするため,本研究では次の課題に基づき研究を遂行してきた.すなわち,1) 過栄養がもたらす小胞体ストレス応答の分子機構解明,2) 過栄養における肝脂質代謝機能の破綻が非アルコール性脂肪肝炎(NASH)・インスリン抵抗性を発症する機序である. これまでに,過栄養・肥満場体では肝へ過剰に流入した脂肪酸が小胞体ストレスを誘導し,アポリポ蛋白B (apoB)の分泌を減少させ脂肪肝が促進するという現象を明らかにし,そのメカニズムに関してpalmitic acid (PA)はセラミド合成経路を一部に介し小胞体ストレスを亢進させapoBの分泌を阻害すること,一方,DHAは小胞体ストレスよりはむしろ酸化ストレスの亢進を介しapoB分泌を阻害することを見出した.すなわち,脂肪酸はその種類によって,共通あるいは固有の小胞体ストレスあるいは酸化ストレス経路を介してaPOBの分泌を阻害し,脂肪肝や脂質異常症を発症させうる.また,インスリン抵抗性の進展に伴い肝臓への炎症細胞の浸潤が惹起され,抗アレルギー薬により肝臓における炎症の改善がNASHの進展阻止につながることを見出した.また,飽和脂肪酸のPAは肝細胞においてミトコンドリア由来の活性酸素種を過剰に産生し,ストレスキナーゼであるJNKをリン酸化し,インスリン受容体基質IRS-2リン酸化の阻害を介してインスリンシグナルを低下させることを明らかにした.
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