研究概要 |
動脈硬化症では生理的血管機能が障害されているが、その主要な原因として、一酸化窒素(NO)の産生及び作用の低下が知られている。血管内皮細胞由来のNOは可溶性グアニル酸シクラーゼ(GC)と結合し、細胞内cGMP濃度上昇を介して血管拡張、白血球接着抑制、増殖因子・遊走因子発現調節、血小板凝集抑制などの作用を発揮し、血管壁再構築と血管新生を制御しているが、高血糖、腎不全、高LDLコレステロール血症などの病態はNO産生障害を引き起こす。一方、ナトリウム利尿ペプチド(NP)は膜型GCであるGC-AおよびGC-Bを受容体として、細胞内cGMP濃度上昇を介して種々の生物作用を発揮する。我々は、糖尿病や腎不全を合併する末梢動脈疾患(PAD)において、NP/cGNP系活性化が血流回復と臨床症状改善を生じ得ることを示している。本年度は、ストレプトゾトシン誘発糖尿病マウスと正常血糖マウスの大腿動脈における、NP受容体(GC-A, GC-B, NPR-C)のmRNAおよび蛋白発現の比較を試みた。PADモデル作製のためマウスに大腿動脈結紮・切除を行なう際に切除される動脈組織の利用を予定したが、RNAおよび蛋白の回収量が予想よりも少なく、技術的な再検討が必要と考えられた。次に、平成21年度に予定していた心房性NP(ANP)の投与量最適化を試みた。ANP/GC-A系の脂肪分解作用が知られ、我々も脳性NP(BNP)過剰発現トランスジェニックマウスでBNPの抗肥満・抗脂肪肝作用を確認しているため、肥満・脂肪肝とPADの両方に有効な投与法を検討した。8週齢雄C57BL/6Jマウスに対して、ANP用量を腹腔内持続投与にて3mg/kg/minとすると体重減少が認められたが、血圧低下に伴う交感神経活性化のためと考えられる尿中カテコラミン排泄量の増加が認められた。1.5mg/kg/minでは、尿中カテコラミン排泄量の増加は認められなかった。
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