研究代表者らは、大腿動脈結紮切除による下肢閉塞性動脈硬化症のマウスモデルにおいて、ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病状態が下肢血流回復に遅延を生じさせること、そして、この遅延が腹腔内に留置した浸透圧ポンプを用いたヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP)の持続腹腔内投与により回復すること、さらに、糖尿病や慢性腎不全を合併した下肢閉塞性動脈硬化症患者においてhANPの持続静注が臨床症状の改善をもたらすことを報告している。昨年度に引き続き、STZ糖尿病マウスの下肢動脈におけるANPと脳性ナトリウム利尿ペプチドの受容体であるグアニル酸シクラーゼ(GC)-Aの遺伝子および蛋白発現の検討を試みたが、安定した結果を得るには至らなかった。一方、通常食あるいは高脂肪食(45kca1% fat)で8週齢から6週間飼育したマウスの大腿四頭筋におけるGC-Aとナトリウム利尿ペプチドのクリアランスに関与するNPR-Cの発現を比較したところ、高脂肪食で飼育し耐糖能障害を惹起したマウスではGC-Aの発現低下とNPR-Cの発現亢進が認められた。ANP/GC-A系は中性脂肪分解と脂肪酸燃焼を促進するため、この成績はANP/GC-A系シグナルの抑制により悪性サイクルが形成される可能性を示唆している。また、同様の変化が血管壁にも生じているのであれば、メタボリックシンドロームにおける血管病変の増悪因子になりうると考えられた。今後、実験系の再構築と今回見いだした現象のメカニズムの解析を行う予定である。
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