本研究は、エネルギー代謝調節ホルモンのグレリンが自律神経機能を調節するメカニズムを明らかにすることを目的として計画した。平成20年度は、胃から分泌されたグレリンがどのような作用機序で体温調節を行うのかについての解明を中心に研究を進めた。 夜行性であるマウスの体温は、行動期の暗期に高く休息期の明期に低い、明確な日内リズムを示す。しかしながら、グレリン遺伝子欠損マウスでは体温の変動が短い周期で起き、体温の日内リズムに乱れが観察された。一方、このマウスにグレリン受容体アゴニストを長期間投与することによって野生型に近い体温リズムを観察することができた。そこで、胃から分泌されたグレリンがどのような機構で体温調節を行うのかを検討したところ、グレリンによる食欲調節の場合と同様に、胃の迷走神経を介して延髄孤束核へシグナルを伝えることが明らかとなった。グレリンのシグナルが中枢内でどのような神経回路により伝わるのかについては現在解析中だが、免疫組織化学的実験から延髄縫線核を介することは示すことができた。褐色脂肪組織での発熱は、交感神経末端から分泌されるノルアドレナリンの刺激が褐色脂肪細胞のβ3アドレナリン受容体を介してアンカップリングプロテインの活性や発現を上昇させることにより生じる。そこで、まず電気生理学的な実験を行って褐色脂肪組織へ入力する交感神経活動を検討した結果、グレリン投与によって褐色脂肪組織へ入力する交感神経活動は減弱することが示された。さらに、グレリンの長期投与は交感神経末端のノルアドレナリン合成酵素系の発現も低下させ、絶食時のグレリン遺伝子欠損マウスでは血中のノルアドレナリン含量が高値を示すなど。褐色脂肪組織の発熱に対しグレリンは交感神経の入力系を総じて低下させることが示された。 平成21年度は、グレリンによる血圧調節機構についても検討を進める計画である。
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